変 化 |
変質していくものがある 時がたつにつれて 砂埃がたまるように 鳩のふんが広場を汚していくように 新築の壁がすすけていくように 人はそれをこまめに掃除して 少しでもくいとめようとするのだろうけど 荒れるに任せ果てた邸の内には いつか魔物が住み着くと信じられたように 私はもう 変質に逆らう気力を持ち合わせず 少しずつ 滅びに向かって暮らしているような そんな感じ 人を言葉では励まし しっかりせねばと言い聞かせ いつか良い事があると 信じてみようともしながら 心の奥底では どんな真っ当な営みも試みも ほんとは大いに無駄なんじゃないかと 思い始めている たとえば男女の愛も うまく成就する例のほうがまれで 多くは 出会わなかった頃のままと 何ら変わらない 或いは変わってしまった 徒労の跡を残すだけになるだろう それでも人は人を愛する 一体何のために? 毎日何かを食べ何かを飲み、眠り、 疲れたといいながらまた働く 多くは 取り替えのきく部品の一つに過ぎないのに それでも人は人の中で生きる 一体何のために? 一つの事が次第に変質したと思うのは錯覚で 徐々に本質が見えてあらわれてくるだけなのかもしれないが 私は 何をしたくて 何を待ち 何をあきらめ 何を捨てようとし 何を得ようとしているのだろう 来年の春を待つ気持ちが 果たして来年も続いているだろうか ただ春の夜の夢のごとし 風の前の塵に同じ という文言を 試験の為に覚えた頃は何の自覚も伴わなかったのに 今は愕然と突き刺さるように 胸にしみこんでくる 変化するつじつまの合わぬ夢を見ながら いつか現実そのものに目覚めて終わるのが 古来から繰り返される人の世というものなのか 誰にもわかるまい 人ひとりの心の闇などは 変化の棲まう暗い淵などは |