離 れ |
もう何日の間 こうしてのらくらと寝たり起きたりしているのだろう 床ずれが出来たり 足が弱ると大変だからと 起きて何となく過ごしたりしているうちは良いが そのうちにもっと暑くなって あの猫も 退屈で寄り付いてさえこなくなるのかな 厠にもいけなくなったらとても嫌だな 期待にこたえられなくなった身のさびしさ いつ終わるともわからない ただ待つことの長さ 僕よりはよっぽど役立たずに思える ずうずうしいあの馬鹿あたりのほうが きっとこの先も何だかんだと逃げおおせながら あくせくとみにくく長生きしていくんだろうな 僕は聖人ではないので 嫌いな人は嫌いだ たぶん、あんなのはどこかで簡単に裏切るよ、と わかっていたけれど聞き届けられなかった 傷つくんだろう、やっぱり でも僕はもう、そばにいてなぐさめる事もできない 顛末はある程度みえていてもあの人の選んだこと それはそれ、だ 出された薬はちっとも飲まなかった 手紙や日記や詩句を書くこともしない さだめられた事のなかで 何もかもがおそらくもう無駄だから 千万の文字を残したところで 僕の気持ちなんか正しくはあらわせっこないのだ それに柄じゃないよ 後から見られることを思うと恥ずかしくって 何にもなく消えていっちゃったほうが僕らしい でも僕は決して 自分から死んではいけない あきらめて死を選んだ人が どんなに深い傷あとをのちのちまで残すのか 僕はいやというほどに知っているから どんなに悲しんで気が変になるほど後悔するのか 味わってきたから あの人が生きているうちは、 僕は自分から死んではいけない それが僕に課せられた最後の仕事 僕がさっぱりと待つのをやめてしまったと知ったら あの人はとても泣いたり怒ったりするだろう だから僕は待ち続ける 待っている自分をやめてはいけない 考えてみたらやくたいもない思い付きだが 奇跡でも起きないかぎり あの人の苦境がたちまちに晴れることはたぶん、ない あの人は僕なんかよりとてもお人よしで だからもっともっと疲れてしまうだろう 僕の出来ることは あいつがそこで待っていて また悪い冗談のひとつでも言って笑うだろうと 思い出せる身でいることだ だから僕は あの人を待つ この陽だまりの離れで |