去りゆく背越しに                                    
かいなをまわし
なれし衣をつかみたり
いまひとたびいだき寄せ
うつろを埋めたまえと


ほのかに吸いて
何ごともなきかのごとく
刻限を案じつつ
冷えまさる風の中へと
程なくして遠ざかりけり


見上ぐれば
赤き星いとあやしげに光りたり


いくとせ秋のめぐるごとに
おもう心はいやまさり
などか二人のみにてならざるか
なにゆえに
数々のよこしまなるものどもを
とりのぞくことあたわぬかと


恋を得ることはたやすかりしに
あがなうはかくも厄介なるべし


身も心も
甘やかなわざ尽くして
骨もとろけよとて
ゆきてはかえり
つくづくと疲れ果てしが


はや泣くことも許されず
定められたるきざはしを
囚われ人にも似て
ひと足ごとに踏みゆくも


かにかくの憂いを積みて
星月の長夜ふけゆく
 
 

帰ろうとしてる背中をひきとめて
私は両腕をまわして
貴方の、いつもの上着をつかんだ
もう一度ぎゅっと抱きしめて
からっぽになるのを埋めてほしかったから


軽いキスのあとで
貴方はまるで何もなかったみたいに
帰りはどのくらいかかるかなと気にして
だんだん寒くなってきた風の中へ
わりとあっさりと、車を走らせていっちゃった


しょうがないので空を見上げてみたら
赤っぽい星、火星か……奇妙に光ってたわ


貴方とつきあってから、何度も秋は来てるけど
色々と考え込んじゃうことが増える一方
どうしていつも二人っきりでいられないのかしら
どうして
私達の前にあるたくさんのお邪魔な物を
綺麗さっぱり片付けちゃうわけにいかないのかな


恋って突然好きになっちゃうのは簡単だけど
だんだんツケがたまると払うのは大変みたい


体も気持ちも
メロメロにさせるくらいに素敵な貴方
骨まで溶けちゃうって錯覚するほど
もうダメって思ったり、ちゃっかり復活したり
ほんとに疲れきっちゃうんだけど


いつまでもメソメソして許されるわけでもないし
ここをいくしかないって決まっているステップ
すっかり鎖で繋がれてるみたい
引かれるまま一歩ずつ踏んでいくしかないのに


もうほんと、こんなに悩んでてイヤになっちゃう
秋の星と月って夜中にはすごくさみしいもの




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