My Funny Valentine
  
毎年この時期になると少し悩む
甘い匂いときらびやかな熱気に包まれた
女たちの戦いのチョコレート売り場
さんざん迷いに迷って吟味して
もちろん全部食べてみるわけにもいかないので
あれこれ想像して綺麗なパッケージを眺めて
ようやく思い切って
よし、これだ!
と決めた本格高級チョコを贈っても
そもそも貴方は胸がやけてそんなに好きじゃないという
山盛りのパフェなんか
食べてるひとを見るだけで顔をしかめる
某有名ブランドのすら口にあわないという
 
 
それでとうとう
渡す当日まで買いそびれる
 
 
( いまさら手づくりチョコという柄でもないしねえ・・・)
 
 
しかたがないので
いつものコンビニでいつもの買い物をして
ほんとに申しわけばかりの小さなチョコの包みをひとつ
白いビニール袋の中にそっとしのばせる
そしてご所望のペットボトルのコーラをドン、と置いた横っちょに
何も言わないでそのまま
青いホイルに包まれた貝殻の形をした
あたりまえの何のヘンテツもない
チョコの包みを
たいへんそっけなく置いておく
 
 
あなたはねっころがったまま
テレビに夢中で案の定しばらく気づかない
 
 
そのうち、
 
 
「あれっ」
来た来た来た………
「えーとね、ほら、おしるし」
と笑いをこらえて答える
( ほんとは何か気の利いたプレゼントに添えてとも思ってたんだけど
今年は選んでる暇も予算もシャレっ気もなかったのよ・・・)
( 可愛いカード書いてつけるなんてのもはずかしかったから
やらなかったんだってば)
と、いう言い訳もはさまない
 
 
だいたいの場合
センスのよいあなたに何か贈りものをするというのは
いつもとても難しいのだ
ほかの人の何倍も緊張するのだ
高級品から特売品まで何にでも詳しいうえに
好みじゃなければぜんぜん欲しがりもしないというあなたには
何をあげてもがっかりさせるんじゃないかと
ハラハラと取り越し苦労するのだ
 
 
それでもう小細工はやめることにしたんです
 
 
と、いう複雑なオンナゴコロのカットウをよそに、
あなたもにやっとする
それから後で思い出したように青いリボンをほどき
小さな袋を器用な指であけて
「これなら食える」
とか何とか言いながら結構喜んで口にした
 
 
しかも
( あら最後のひとつまで )
と思ってながめていたら
貝殻の一枚をぱきん、と歯でわって
油断している私の口にひょいとほうりこんだ
 
 
まったくの話
何年たってもあなたにはかなわない
だいいち
もうわざわざ告白する必要がないんだった
Each day is my Valentine's day.
 




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