女子と小人の泣き虫考
えー…… 
 
 
「ほめりゃ図に乗る
 叱ればすねる、
 さりとて殺せば化けて出る……」
 
 
 
などと、古来より言われておりますものは何でしょう?
3行目の文により、特定される答えは、そう、オンナ……まあ、ご婦人のことですな。
しかし、1、2行目までだけをとらえれば、もうひとつの答えが連想されそうです。 
さよう、コドモ……まあ、小人とも書きますな。
 
 
「とかく、女子と小人は養いがたし」
 
などという、古い表現もあります。このように小難しく書けば偉そうに見えるというのが、
インテリげんちゃんの悪い癖でございまして、まあ、たいらな言葉におきかえますというと、
「女子供ってやつァ、どうにも手に負えねえ」
という直訳になります。お察しの通り、一般男性としての、日々の実感でしょうな。 
 
あ、そこで怒髪を逆立てている、某女性評論家のようなキツイ眼差しをなさったあなた、
この講義は、男子諸君のためのものであって、性差別がテーマではありませんからな。
君は、男女雇用機会均等法か、夫婦別姓問題のほうのゼミにでも行ってきたまえ。はい、左様なら。
ふう……中断して、失礼しました。どうも、あの手の女傑は苦手で……(笑)
 
さて、では本日のテーマとしてとりあげてみたいものを申し上げます。
 
「女というものは、たとえいくつになっても、
好きな男の前では、
少女に戻るものである。(あるいは、戻ることが出来る)」
 
という仮設と、
 
「女のなかの泣き虫について」
この2点をからませて進めたいと思いますよ。
 
え、何、質問?
「男も、好きなコの前では、少年の心に戻るものではないでしょうか」って……
君、馬鹿を言ってはいけません。
男は、別に恋愛の場においてではなくても、常にどこかしらガキなものです。(笑)
したがって、男性の少年性というものは本日のテーマには添わない。チャチャを入れないように。
 
どこまで話したっけな。
 
そう、おもに恋愛相手といる時にかぎって、
女のひとというのは、不意に「泣き虫」になったりすることがあります。
それが、たとえ日頃は颯爽と7センチのハイヒールを履いて歩いている、切れ者の大人の女性だと
いう世間的評価を受けているひとであったとしても、ですよ。

そして、えてしてその場にいあわせる男性……まあ、「カレシ」ですな。
は、思わぬ涙の奇襲に面食らったりするわけです。

諸君も経験がないかな?
「なんでここで泣き出すのか、わけがわからん」という彼女の涙に遭遇したことが……
ああ、君はいい。そんな相手すらいなさそうなのはわかっておりますからね。(笑)

その時、彼女はひとりの「少女」……つまり、小さなオンナノコに戻ってしまっている、という仮定で
状況を考えてみることが必要であります。
涙、とひとくちに言っても、ヒトが泣く、という場合はさまざまであるから、また別の時の話題にしますが、
一般的に言って、感情の高ぶり、つまり、胸が一杯になってある思いが突き上げてくる、
という突発的な衝動により、
涙、まあたまに嗚咽というものもともなったりするけれども、
というものがあらわれると考えてよい、と思います。

で、先ほどの女と子供、という視点に戻るわけですが、
さっきまで機嫌良く、あるいはおとなしくしていた子供が、急に泣き出すことがあるのは、
周知のことですな。
その場合、子供はただ泣きたいから泣いているのであって、
どうして泣いているのか、と質問しても、答えられぬものでしょう。
 
「あらあらどうしたのかなー?」
などとあやしてもなだめてもすかしても多くは無駄でして、
彼らの気がすむまで、あるいは泣くことへの注意が他にそれるまで、待つしかないわけです。

したがって、
君の彼女が、不意にシクシクと泣き出した時には、
いいですか、ここがポイントですから、ちゃんとノートにとっておくように。
特に、いつも赤点の君。君ですよ。キョロキョロ見渡さんでも、君ですって。覚えておかんと落第するぞ。(笑)

彼女が泣いている時には、
決して、
それを制止したり、理由を問いただしたり、とがめたりしてはいけません。
泣いていることそのものを無視する、などというのは下の下、ですな。
 
何しろ、彼女はひとりの可愛らしい(見た目はともかく)
オンナノコ、になってしまっているわけですから……
 
自分でも、どうして涙が出るのかわからない場合も多いわけですよ。
小さい子と同じく、
「自分はこうこう、こういうことが原因で喜怒哀楽のいずれの感情が
このように振幅した結果、両方の涙腺を刺激され、
また声帯がこのような状態になったため、泣くという行為に至っている」
という説明は出来ないわけです。
 
ま、「泣きたくなったから泣く」というのが真実です。
 
古い歌謡曲を引用しますと、
 
「一目見た時好きになったのよ
 何がなんだかわからないのよ
 日暮れになると、涙が出るのよ
 知らず知らずに泣けてくるのよ
 ねえ、……ネエ、愛してちょうだいね」
うーむ、日が暮れただけでも泣けるとは驚異ですな。
 
それでは、我々男性……つまり彼氏はどうしたらよいか?
答えは簡単であります。
 
彼女への「愛」がある場合には、
小さなオンナノコ……つまり、目の前の少女が泣きやむまで、
じっと待ってあげるしかないのです。

そのさい、無視しているのではない証拠に、ちょっと煙草の一本でも吸い終わるまでの間、
軽い抱擁をしてあげるとか、または、頭、髪でもよろしいが……あるいは背中などを
いたわりをもって撫でてあげる、などというスキンシップも効果的でしょう。
時として、そのやさしさに感動していっそう泣き声のテンションが上がる場合もありますが、
何、そこでひるんではいけません。ほぼ9割9分の確率で、そういった泣き方は5分以内に
静まります。向こうも疲れますからね。(笑)
健康のため喫煙しない、という良識ある男子は、
可能ならば良質の音楽などをかけてみるとかいう技もありうるでしょう。工夫してみて下さい。

彼女のセンチメンタリズムに乗じて、そのまま肉体的に重なり合ってしまう、
などという手段も考えられますが……
これは、時により逆効果なことがあるので、注意が必要です。
「あたしが、こんなに(○○○)で、泣いているっていうのにアナタってヒトは!」
○○○には、悲しくて、とか、怒って、切なくて、心配で、悩んで、などという語句が入りがちですな。
別に、彼女らがさほど深く悩んでいるわけじゃないにしても、です。
まあ、上級者以外は、ためさないほうが無難なテクニックでしょうな。(なだれこみエッチ)
 
これらの臨機応変な対処が出来ない場合はどうなるか、ということですが……
 
君、女と子供の共通項、というところ、ちゃんとわかってますか?
 
子供はね、
「あ、このヒトの前で泣いてもゼンゼン無駄みたい」という場合は、
案外泣きません。
つまずいて転んだ子供が、平気な顔で起きあがろうとした時に、
心配して駆けつけた母親の顔を見たとたん泣き出すのはご存知でしょうか?
あれが、その人の前では泣くという現象です。

やさしく受け止めてくれる、或いは自分にかまってくれる、という対象……まあ、
甘える相手、心を開いてよい相手ですな。それをちゃんと選んで泣くのですよ。
泣く、という行為が、要するに信号なのですな。
 
彼女もしかり、です。
「何、泣いてんだよ」
「どうしたんだよ」
「泣くなよ」
という君たちの不用意な言動によって、彼女はどう感じるか?
 
「あ……私は、この人の前だからこそ、心を許して泣いたのに、
彼ったらそんなことも受け止められないんだわ……」
「誰の前でも泣けるわけじゃないのにわかってくれないのね」
はては、
「誰のせいで泣いてると思ってんのよ!」
という飛躍に及ぶこともあります。

子供が、相手を選んで泣くのとほぼ同じですね。
その場合、彼女は泣く、ということによって、彼氏に対し、
(知らず知らずのうちにも)抜き打ちテストをしていると思ってください。
相手である、諸君の度量、キャパシティ、懐の深さ、人間としての温かさ……
そういったものを瞬時に判断しようとしているわけです。
 
で、「この人の前で泣いてもしかたない」と、彼女が
判断してしまった場合、どうなるか?
 
泣き場所となる人を、他に求めがちになります。
ここが、すれ違い、または相手に、乗りかえられる発端ともいえるでしょう。
君が出来なかったことを、仮にA君がやさしく受け止めてくれたとしたら、どうでしょう?
安心して泣かせてくれたとしたら?
または、そのなだめ方がとてもたくみだったとしたら?
 
「だって、彼のほうがやさしくて頼りになるんだもーん」
 
テストの合格不合格の判定は、このように端的な評価をもって終了しがちです。


自分の彼女が、うまいこと泣き虫を卒業して、
近頃はいつもニコニコしてるな、
おとなになったんだな、などと
迂闊に感心している場合ではありませんよ。
 
心から、一人の少女に戻れる相手が、他の人にうつっただけかもしれないのです。
その時になって、自分が泣くことにならないよう、気をつけなくっちゃ。ほら、さっきから言ってるけど、
そこの君。要注意です。ここは試験に出ますよ。(笑)
 
おお、5分でまとめるつもりが、ついついこんなに長くなりました。ご静聴有難う。
いやあ、そういえばウチの細君もこのところ、私の前で泣くどころか、
めったに笑いもしなくなりましたな……(笑)
諸君のことを言っている場合ではないかもしれませんな。
早く帰って、たまにはゆっくり、二人で珈琲でも沸かすことにいたしましょう。
では、本日はこのへんで……


(終了)




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