鉄之助日記

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 「鉄之助日記」          作:市村鉄之助



 今日も退屈である 
この物語の主人公 新選組平隊士齢16歳の「市村鉄之助」は
ぶすっ垂れた顔で障子に手をかける
朝から良い天気で 子供のはしゃぐ声と 遠くから聞こえる涼しげな風鈴の音
つと視線を下げれば 訝しい眼差しで碁盤を見つめる者 
室内だというのに素振りをする者
かたや大鼾をかき 白昼堂々昼寝をするもの・・・・累々
誰もかれも おもいおもい 暇な一日をすごしながら 
心の奥底で 退屈を叫んでいた
「一日外出禁止とは 如何なる了見で 下された命なのでしょうか?
 ああ 退屈ですっ」
副長の言った事だから なにかあるんだ・・・!だから今日は外出しないぞ)
と頭で理解していても思わず言葉にでてしまう 人の本音
「遊びに行きたいなあ・・・せめて西瓜か何か食べに行きたい」
(仏様 鉄之助に西瓜を食べさせてください お願いします!)
と祈った
大の甘党な鉄之助は 澄み渡った青空に浮かぶ 
もくもくとした雲に西瓜や甘い菓子を想像したすると 
クスクスと笑う沖田
「でも 今誘惑にまけて外出すれば 命令違反で切腹ですよ?たかが 菓子のタメに」
切腹 という沖田のセリフに 周りの者達はその心臓をビクリとさせたが
子供達のはしゃぎ声でまた 好きな事を再開した
勿論 その意気揚揚な胸をビクリとさせたのは 鉄之助も同じである
「せ・・・・切腹したくないので 我慢しますっ」
まだまだ幼さが残る顔を渋つかせ  切腹せっぷく・・・と心の中で繰り返す
渋い顔をしている鉄之助を見て 沖田は少し申し訳無くなった
「おっと 嫌だなあ そんな顔しないで下さいよ 〜すればの話なのですから」
取り繕うように 子猫から手を離して 鉄之助の顔を覗き込む沖田は
けれど笑顔であった
「いっ・・・いえ!士道に背くまじきこと!ですから」
きりりとした顔立ちにもどる鉄之助 しかし心の奥底では西瓜と菓子で一杯だ
意味の無い 可愛らしい会話が続く中 京の太陽は真南に昇っていた
 それまた別室で猛暑に耐えながら ひたすら発句帳を睨みつける男がいた
その傍らで これまた笑顔に汗をだらだらと滲ませる男もいた
前者は泣く子も黙る新選組「鬼」副長土方歳三 またの名を豊玉宗匠
後者は泣く子も黙る新選組「仏」局長近藤 勇 である
「なあ 歳 こんな良い天気に何故唐突な外出禁止令をだしたのだ?」
仏の近藤は穏かに聞いた
「うん?そりゃ近藤さん あいつらの為さ」
発句帖を一旦卓上に置き ふと後ろを振り向き答える鬼副長もとい土方
(あいつらのため?はて どういう意味だろうか?)
と近藤は考えたが 口にはしない
ひたすら笑顔で「そうかそうか」と頷いた
(近藤さん 俺の言った事わかっていねえな)
と土方も思ったが こちらもまた口にしない
奇妙な いや そうゆう「あ」「うん」の呼吸がこの二人にはある
そんな関係を尊敬する者も多数いた
心では通じ合う何か とでも言っておこうか
 暫くとりとめの無い雑談の後 開け放たれた障子の前に黒い影が立塞がった
すこし 室内が薄暗くなり 照りつける太陽の光をやわらげると 黒い影の男は
「只今もどりました 例の品を買いつけてきました故 確認のほどを・・・」
逆光で良く見えないため 室内に男をよびつける近藤
(さて 何かたのんでおったかなあ??)
と思えど 一応男の持っていた風呂敷に興味をもつ
すると それよりも先に風呂敷に手を伸ばしたのは 土方である
有無を言わさず風呂敷をもぎとると 部屋の片隅にもっていき
 中身を確認する土方
(・・・・・気になるなあ)
と また思うが 局長の威信にかけて口にできない近藤
「山崎 ご苦労であった もう下がってよいぞ」
一拍子あけて 山崎と口にした土方は手でサッと払う
ここでやっと この猛暑の中を重そうな風呂敷を下げてきた男の正体がわかった
「さようで御座いますか ほな失礼します」
人のよさそうな笑顔で一例すると そつなく部屋から出ていった
「山崎君は何時見ても そつがない 彼の最大の美徳だな なあ歳?」
うんうんと頷いて 土方を見つめると 土方はあわてて 「う、うむ」
と返事をするまるで 何か隠れている感じだ
「?なあ歳 その風呂敷の中は何なのだ?大事そうに抱えているが」
「近藤さん 頼みがある 夕方から隊士全員 中庭に集めて欲しい」
少し話をそらすように 土方は真剣な顔になる 
人のいい近藤は頼みをすぐ了解した
しかし 重そうでなにか丸みを帯びた風呂敷がきにかかる
「では 頼みましたよ それより近藤さん これの中身が気になるかい?」
言い当てられ一瞬硬直したがうむと頷く
「そこまで言うなら あんたにだけそっと見せてやろう・・・ほら」
バサリと風呂敷を落として中身をさらけだす
近藤の目と口がポカンと開いた
 いつしか障子の向こうは綺麗な夕焼け 猛暑もダイブ収まった
暇でしょうもなかった鉄之助もあきらめ 部屋で本を読んでいる
(今日は何も無い一日だった と日記をつけおこう)
と 一人机から日記帳を取り出す
ガタガタとたてつけが悪く 思うように開かない
悪戦苦闘している時 また障子の向こうで声がした
「市村 局長が至急隊士皆中庭に集合せよとのこと 早くしたまえ」
ガラリとひきだしが開くのと同時に部屋の障子も開く
そこにいたのは新選組副長助勤斎藤一である
無表情をきめこみ 鉄之助もおもわず慌てて立ち上がった
実はこの斎藤が苦手である
「え?局長が?なんでしょう・・・・あっ!すいません 今したくをします」
一日だらけて読書していたので 着物が乱れている
「かまわん 気にするな いそげ」
淡々と にこりともせず答える斎藤
ますます緊張し上手く着物がなおせない鉄之助
はたから見て かなり可笑しな光景だ
「はい!で・・出来ました!お待たせしてすいません」
「・・・・・・ならば行くぞ」
黙々と後をついて 部屋からでた斎藤・鉄之助
中庭まで会話という会話が無い
重たい沈黙 無論斎藤は気付きもしない
(やはり この方は苦手だなあ 嫌われているのだろうか・・・)
など いらぬ事も考えている鉄之助
まもなく中庭につく
(早く着いて下さい)
心で切望した
夕焼けが京の空を塗り込めている 
その空の下 屈強な隊士達がざわざわと集まっていた
皆夕焼けで着物の色が同じにみえ どこか可笑しい
「わあ 本当に皆様召集なのですね!」
思わず鉄之助が口を開いたが 見向きもしない斎藤
(ああ・・・無視された)
とか思ってしまう
どよんと垂れ込めた気持ちになって 暫くしてから 隊士達の喧騒静まった
局長並びに副長のお出ましである
「今日は一日外出禁止令が出ていた 辛かったであろう?わはは」
と何故か上機嫌の局長
その横でにこりともせず 隊士を睨みつける副長
「命令違反もなく なによりだな」
冷笑を浮かべ 言い渡す副長
全隊士冷汗ドキドキである
勿論鉄之助も危うく 菓子を食べに行き 切腹になりそうだったので ドキドキだ
(もし私が出かけていたら切腹で 誰かに介錯を頼んでいたのだ)
とか考えている鉄之助
なかで 数名だけ尊敬ドキドキしていたりするから面白い
「そのような言い方はあるまい(^^;)さあ 例のものを・・・」
少し困ったように笑って近藤は土方に促す
うむと呟きサッと二人の後ろにあった樽を前に出した
薄暗くてよく見えないが 大きな樽に水がチャプチャしている
それに丸いものがいくつか浮いていて 不思議だ
隊士が皆 目を細めたり背伸びしたりしてその不思議な樽を見つめた
「・・・・・・首か?」
無表情を微塵もかえず 小さく呟く斎藤
斎藤の周囲に居た隊士達は鉄之助もふくめ 絶句して斎藤を見つめた
確かに水の張った樽に首が浮いているように見える
これを皆で洗えというのだろうか!?
(く・・・・・く・・・・首!?何故首・・・・!?)
あわわしている者もいる
鉄之助など頭が真っ白だ
「・・・・冗談だ」
これまた真顔で冗談だと呟く斎藤にもはや言葉は無い
斎藤を取り巻いた空間だけ 沈黙が重かった
「ゴホン 本日皆に集まってもらったのはほかでもない これを皆で食べようと思ってな」
ザバーツと樽から近藤が取り出した物は・・・・
斎藤の周りの隊士及び鉄之助はドキドキである
いくら冗談でも いやがおうに首に見えてしまう
いや首なのかもしれない
(首だったらどうしよう!?><)
と鉄之助は気が気じゃない
その答えが夕日に照らし出されて判明した
「・・・・・・・・・・・・!?」
 周りで隊士達の楽しそうな声と 心地よいしゃりしゃりとした音がする
甘い香りが中庭にたち込め 子蝿が集まる
皆幸せそうにその丸い いや 今は三日月に切りそろえられた物を食べていた
シャリシャリと良い音だ
屈強な新選組も夏らしい風景だ
鉄之助も美味しく食べている
(美味しい西瓜!まさかあの「鬼」副長が私達の為にこんなもの買ってきてくれたなんて)
そう あの丸い浮いているものは「西瓜」だったのだ
「その西瓜は皆の為に歳が そして山崎君がわざわざ買い付けてきたのだ」
と ありがたそうに言い渡す近藤
照れくさそうに笑う 山崎
何か微笑ましい
しかし 当の土方は相変わらず ぶすっと不味そうに西瓜を食べている
「そんな不味そうに食べていたら 本当に不味くなってしまいますよ?あはは」
と沖田が冗談を言った 皆笑う
「五月蝿いぞ総司! 食べながら話すなといつも言っているだろう!?」
そう言いつつ 顔が赤い土方
(歳さんは照れている)
と思うがやはり口にしない近藤 優しいのだ
「はいはい 素直じゃないなあ 土方さんっ」
沖田がふざけて言い放つ
もう知らんと!そっぽを向く土方
わははと笑う近藤
相変わらず無表情の斎藤
そんな幹部のやりとりに 隊士達が笑っている
鉄之助も可笑しくて笑った
(今日は副長の西瓜が美味しかったと日記に書いておこう!)
と心の奥底で思った
そして
(やはり仏様は私の願いを叶えてくれたのだ 食べたい物を与えて下さった!!)
と 感謝した
何か 嬉しくなってくる
副長の優しさにも 惚れた(邪までは無く)

爽やかな笑顔でまた一つ西瓜を齧る その音が新選組の夏を告げていた・・・・

           
                    終わり

   「鉄之助日記」〜鉄之助恋物語(?)〜        作:市村鉄之助
  

 あの方はいつも無表情
師範代をしている時も 祇園に遊びに行く時も
その秀麗な顔を 微塵も変える事が無い
彼の名前は 新選組三番隊組長「斎藤一」
剣の腕前は隊内屈指で その冷静な判断力や実力は局長ら幹部にも信頼が厚い
只 いかせん付き合いにくい・・・と言うか 個性的というか
しかも本人まったく気付かないのでなすすべがない
不思議な雰囲気を持っている 味の深い男だった
またしても この日記の作者 市村鉄之助(以下鉄之助)は頭を悩ませている
がやがやと喧騒の中 一人浮かない顔をして 夕食を食べていた
鉄之助の悩み事 それは
(何故斎藤先生は私をお嫌いなのでしょうか・・・)
と ゆうように 上記で書いた 斎藤の事であった
先日の西瓜の時の無視が その疑惑を増大させる
まして 普段から割りと傍に居る事が多いのに あまり会話が無いのも理由だ
(きっと 何かお気にめさない事をしたんだ・・・そうに違いない)
グルグルと頭の中で他愛もない思考の渦が 少年の顔を暗くして行く
にぎやかな中 嫌でも目立つものだ
そんな鉄之助を見かけた者が 気をきかせて声をかけた
「どうした!?そんな暗れー顔して!この前の西瓜が当たったか!?」
大声に大丼を掲げて 意気揚揚と声をかけてきたのは
新選組十番隊組長「原田左之助」(以下左之助)である
好色で豪快な 義理人情に厚く とっても熱い人だ
鉄之助もこの人が大好きであった
「いえ あのそんなたいした事じゃないんです!すいません」
取り繕う笑顔ははたから見ても 明らかで
左之助はいぶかしげにその場に座り込んだ
「おいおい その面がたいした事のない顔かよ?なんだ言ってみろっ」
半分本気とも冗談とも思える表情でじりじりと鉄之助の顔を覗き込む
そして また質問した
「なんだ?隊務の事か?お前のようなひよっこはやはりまだ辛いか わはは」
と 一つ豪胆に笑うと
「・・・それともお前ぇ 色恋沙汰か?」
と小指を立てて にやりと笑う
鉄之助は耳まで赤くして 俯いた
「色恋沙汰・・・ある意味そうかもしれません 私はその方に嫌われている」
そして語尾に「辛いのです・・・」と小さく呟く鉄之助
「そのかたは 祇園の料亭によくいるんです あの隊士御用達の・・・」
(私は斎藤先生を尊敬しているのに それが疎まれているなんて)
と沈んだ顔をさらに深める
すると 左之助は急にしんみりとした表情に変わった
「そうか お前にもいい女がなあ しかし嫌われているのか・・・そうか」
左之助の言葉を聞いて瞬間びっくりした 言葉も出ない
(えっ!?いい女って・・・・・!?)
そうかそうかと呟きながら ゴトンと大丼を床に置く左之助
「あ・・・あの別に私はそんなに思い詰めていませんので・・・」
と 顔をあげ 左之助を見つめる
(この人は何か勘違いをしている!!)
そんな健気な鉄之助にとうとう左之助は我慢できなくなった
「おう!お前ぇは・・・・!水臭いぜ!色恋沙汰は俺にまかせな!!」
ガタリと座を立ち上がり 切腹の古傷を着物の上からパンと叩く
その音があまりに大きかったので その場に居た隊士達は皆注目した
「その淡い恋心 俺が叶えてしんぜよう!待っていろよ!!!」
爽やかなスマイルを残して足早に部屋から出て行く左之助
(これは 大変な事になった・・・・!!!)
と一人鉄之助 無残に頭をうな垂れた
部屋を足早に出た左之助は考えていた
新選組八番隊組長「藤堂平助」も考えていた
もっとも後者の藤堂は左之助の相談を受けた為である
二人も元来美男子でその二人が仲良く しかし難しい顔をして祇園を歩く
すると 道行く女達が恐怖の中に憧れを含んだ瞳で見つめている
そんな視線を全身に受けながら 左之助は口走った
「この道行く女子達ならまだ市村にも望みがある しかしなあ」
ため息まじりで 呟くとゴホンと咳
「島原や遊里の女だったりしたら・・・ですね」
藤堂が先に一番の心配事を言い放つ
「そうだよ!そこが問題だ!あの若い身空で身請けなど出来ようもない!」
「しかも毎日通えるわけもない・・・ですね」
(ああ なんて切ない話なんだ!!!!!)
と二人して顔を見合わせた
そして 一つの料亭に入った 新選組隊士御用達の店である
「ここが例の市村の想い人のいる所ならしい・・・では!」
中はがやがやと賑やかなざわめきで すぐ奥から女中が出てくる
「へえ おいでやすう 今日はどないします?」
下膨れの肌の真白い女は 愛想の良い顔を傾け問うた
名を「美代」という 皆「お美代さん」さんと呼んだ
ここの看板娘で 隊士達には恋心を抱く者も多い
「そうだなあ いつものものを」
と左之助が言うと 短く「へえ」と言ってまた奥にもどろうとする
その淡い朱の小袖の揺れ行くを見ながら また溜息が出た
「お美代さんのような娘なら 市村にも会うだろうに」
と 左之助は言う
「ええ きっと良くお似合いでしょうね!・・・・ですね」
この「ですね」は藤堂の口癖である
確認の意が最後に加わるのだろう
二人また難しい顔で 注文の物をまつ
しばし雑談後 ふと背後で呼ばれた
くるりと踵を返し振り向くと なんとそこには無表情の斎藤が立っていた
にこりともせず口を開く斎藤
「おや 奇遇ですね 貴方方もここにおいでとは」
(本当にそう思っているのか????)
と二人とも思ったが あえて口にせず 笑顔を見せる
「斎藤こそここに来るなんて珍しい どうした?」
「俺はよくこの店にくるのですよ」
鉄之助の悩みの元凶であるとは 微塵もわかっていない二人は口を割った
「私達は今考え事をしているんです 市村さんの事で」
優しくつけたし 「どうぞ」と隣に座らせる藤堂
「うん?市村がどうかしたのか・・?」
座りながら質問する斎藤に 二人はいきさつを話した
事細かに劇的にそして切ない話にも斎藤は表情一つ変えず 聞き入っていた


事の内容が全て話された頃 やっと注文の品が届く
運んできたのはお美代である
「どうぞお お食べになっとくれやす」
笑顔が眩しい
また足早にその場を去るお美代を斎藤は止めた
「申し訳ないが あんたにはここにいてもらおう」
急に呼びとめられ 驚くお美代と左之助 藤堂
「どうしたんだい?斎藤さん」
と 左之助が聞く
するとゆっくり口を開く斎藤
「その話を聞くと 市村が恋心を抱いている人物の検討がついた このような噂
を聞いたことがある 良く市村はこの料亭に足を向け 呆けている・・・と」
うんうんと三人は頷く 斎藤は話をつづけた
「そしてかならず お美代さんと 親しげに話しをするのだそうだ 本当であろう?」
するどい眼差しがお美代を居ぬく
「へ・・へえ よお来て下さいます 市村はんはこの店の馴染ですよって」
一拍子置いて お美代は答えた
「それに 親しげやなんて お客はんとして お話させてもらっとりますのに」
形の良い眉を曇らせ そうどすと頷くお美代
(ああ!このお美代さんは 市村の事など頭にもない!!可哀想に!!)
と 左之助と藤堂は思った
(きっと思いのたけを告げたのだ そして玉砕した)
とも決め付けた
その お美代の切々とした物言いに 三人も市村の事はそれ以上言えなかった
小さく「可哀想に・・・」と口々に呟く
「あのお あて お店がありますよってからに 失礼します」
会釈してお美代を解放した斎藤
斎藤もまたその表情を険しくした
「これは 市村さんには悪いが どうしようもありませんね」
藤堂もそれ以上言えない
「ああ しかし・・・・・人の恋路とは難しいものだなあ 平助」
自分に言い聞かせるように 左之助は頭をうな垂れる
もはやこれ以上の人力は無用 いや野暮であろう
(市村すまぬ)
そう繰り返す頭の中
三人は勘定を払うと 料理にはほとんど手をつけずに店を出た
お美代は不思議そうに見送った


 屯所に帰りついた頃には もうすっかり夜である
その三人の顔色は浮かない
豪傑な左之助まで黙っている
そこに やはり浮かない顔の鉄之助が走ってきた
「あ・・原田先生!あのお帰りなさい!い・・今まで何を?」
(まさか 先ほどの話をどうにかしていたのでは!?)
もう鉄之助はドキドキである
その心配そうな表情に とうとう左之助は突っ伏してしまう
「すまねえ市村!お前さんの愛しい女の事はあきらめろとしか言えネエ!」
大声をあげて謝るものだから 嫌でも屯所中に響く
障子がつぎつぎと開き 何事かと隊士達が覗きはじめた
「はい・・・・・・ってはあ!?」
(やはり 勘違いしてどんな女か見にいったのだ・・・!!!!)
と瞬間鉄之助は考えた その通りである
「大変悲しいですが 貴方の事は只の客人としてしか見ていないようです」
藤堂も悲しげだ
「あきらめろ市村 縁が無いのだろう 」
斎藤だけは あいかわらず無表情で言い放つ
(私は貴方に嫌われている理由を 聞きたいだけなんです!!!)
と心の中で絶叫している鉄之助
(しかし 今ここで原田先生達のご好意を無駄にするのは・・・)
(きっとお美代さんあたりに詮索したのでしょうね〜・・・)
(ああ!次にお美代さんに会う時どんな顔をすればいいのだろう!?)
もはや思考は怒涛の如く とどまらない
「本当にすまねえ!約束を破ってしまった!かわりに他の女を紹介してやろうか!?」
左之助の優しさが痛いほど伝わってくる
(ああ どうしよう この場で本人に直接聞くのがいいのだろうか!?)
ちらりと斎藤を見ると 相変わらず無表情で鉄之助を直視している
その視線は原田さんの気持ちをくんでやれ と促していた
(いけない!私の悩み事を真剣に考えてくれた原田先生に泥を塗るような真似)
(しかし このままでは私がお美代さんに振られた事になってしまう!)
(そんな絵空話日記にもかけません!!!!)
鉄之助は決心した
やはり事実を話して 悩み事の張本人に問う時がきたと自分に言い聞かせた
「斎藤先生え!」
大声で斎藤を呼ぶと じりじりと詰め寄る鉄之助
びっくりして 左之助や藤堂も頭をあげた
当の斎藤も少し驚いて目を広げたが 冷静に聞いた
「うん?何だ?」
(今こそ聞かねば そして真相を・・・!)
「あの・・・あの・・・私・・・実は斎藤先生の事が・・・」
ごもごもして聞き取りにくい これは間近にいた斎藤しか聞き取れない声だ
「あ・・・とゆうか・・・そのですね・・・私の事 お嫌いですか・・!?」
はりさけんばかりの大声で 可愛く問うた 皆驚く
(やった!聞いたぞ!!やっと胸のうちを言ったのだ!!!)
可愛らしく問う鉄之助に 斎藤は
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愚問」
と険しい顔をした しかし少し頬が赤い
彼なりに驚いているのだ
その場に居合わせた 全隊士が驚いて声一つだせない
(市村は男色だ)
と心で振るえた
そして只一人左之助だけは 笑顔を取り戻して 斎藤に詰め寄る
「おうおう!斎藤!おめえも隅におけないなあ!」
と もう先ほどのしおらしさは失われていた
好色な原田は肘で斎藤を促す
ほとほと困って 斎藤は一言告げた
「私は修道の気は無い すまぬ市村」

その顔は険しく歪んでいた
「・・・・・・・・・・・・・・・わあーーーーーっ!!?」
急に顔面蒼白で絶叫する
今度は斎藤が困った顔になる
「い・・・市村・・・・?」
心配そうにみつめて そっと肩をゆすぶった
「いようご両人!お似合いだぜえ!!!」
と わけのわからない事を左之助が大声で言うものだから 隊士達がどよめいた
「へえ 市村さんが男色だったとは知りませんでしたねえ」
中庭にいつのまにかひとだかりが出来 そこには沖田が笑って立っていた
その後ろには 近藤局長や土方副長までいる
「そ・・・そうか 市村君は修道の気がなあ あはは」
局長が力無く笑う 笑うしかない
「ほお・・・市村は男色か 」
土方副長も冷笑を浮かべ 吐き捨てた
その瞳に鉄之助は耐えられなかった
(何故!?どうして!?私は男色ではないいい!!!)
と心で絶叫し その場に卒倒した
(わ・・・・・わたしは・・・・・・・・・ガクリ)


その後 新選組屯所では 「市村は男色」とゆう噂でごったがえす事となる  
そして 暫し男色は流行する
まったく馬鹿げた話だった

                       終わり


  「鉄之助日記」 〜春日〜


温かい日差しが身体を包む
優しくて甘い 穏やかな微風もまた同じだ
春独特の真白い空やそれによく映える桜も
道行く若い娘の鮮やかな着物も
全てが優しく霞みがかって
心の中は透きとおって行く(そんな気がする)
巡察帰りの後 日向の縁側で呆けながら菓子を口に運ぶ
がりがりと心地よい音を立てて 何を見るわけでもなく
只 座っている

市村鉄之助 春です

後ろではばたばたと忙しそうに廊下を走る音がする
少しだけ目をやると 童の様に顔を綻ばせて走る人影
数歩走りすぎ 止まって振り帰ると 沖田さんだ
「まったく 貴方は何をしているのです?あんな面白そうな事」
と 言いかけて また走り去る横顔は嬉嬉満面だった
(あんなに面白い事・・?何だろう。。。)
腰もあげずに けれど 少し気にかけて菓子に手を伸ばす
暫くの沈黙の後
(まあ 後で誰かに伺おう・・・そうしよう)
納得して 縁側でまた呆ける事にした
別室では近藤局長と土方副長 監察の吉村さんが座っていた
割りと良く見られるその並びに一つだけ違和感がある
少し離れて座る娘の人影
漆黒の髪を一つに束ね 色素の薄い肌に桃色の唇が美しい
憂いを含む星の様な瞳は 意志の強さを輝かせている
誰が見ても「美しい、、、」と言わしめるそんな風貌だ
しかし押し黙って人形の様に黙っている姿は少しだけ怖い
それに 皆しかめっ面で 空気が重い
「さて・・・貴殿の事だが 入隊希望でしたかな・・??」
作り笑いに汗を光らせ 近藤局長が尋ねる
娘が答える前に 土方副長が目で吉村さんに説明を促す
吉村貫一郎 吉村監察 密かに隊で一番怒ると鬼のようになる
しかし平素は穏やかで明快な人柄だ(鉄之助談)
その合図に即座に反応する吉村さん
「名前は如月 妙さん 生まれは京都です 剣流は・・北辰一刀流」
簡単ではあるが表面上の説明はこれで充分だ
「ふむ」と頷きながらも 困った様子の近藤局長
それを見た娘こと妙さんは秀麗な顔を下げた
「ご覧の通り 私は女子で御座います 
 ですが武士の志は誰にも負けません 剣の腕にも自信があります
 先程立ち会っていただいた方 剣術師範代で御座いましょう?
 私の実力 お確かめになられたはず さすれば入隊は。。。」
自信たっぷりに笑ってみせ その頭を深めて下げた
「先程の腕前 実に素晴らしいですな なあ吉村君?」
話題をすり替えるように また目で吉村さんに話題を振ると
またも自然に答えて行く
「はい それに文学にも長けていらっしゃいますし。。。」
穏やかに微笑みながら しかし妙さんの視線を受けつつ答えている
「お褒めのお言葉 恐れ入ります して入隊は・・・」
眉を妖しく寄せ 艶かしい表情で問う妙さん
鋭い と皆思った はぐらかし作戦は失敗だ
「しかし。。。歳 どうしたものか?女子の入隊とは。。」
「うん?ああ・・・女子なのだったな は は」
小馬鹿にしたような 冷笑であくまで入隊を拒否する土方副長
まじまじと冷たい瞳で妙さんを一通り眺めている
「はい 私は女子です 隠し様もありません」
その視線に耐えられないように つと頭を上げる妙さんに
すぐに土方副長の顔色が変わる
「フフ その様な態度で武士が勤まりますかな?」
そこまで・・・という近藤局長を尻目に続ける土方副長
押し黙って聞き入っている吉村さん
「ですから 先程の私の腕前を・・・・」
平常心を装っていた 妙さんも流石は土方副長の毒舌に
感情の高ぶりを露見した
「ほう?確かに剣術は大したものですが しかしその気質では・・」
くすりと笑って
「女子をみすみす死地へ追いやる事になると・・・」
いよいよ妙さんも顔色を変える
「それでは 女子の気質では無理だと・・?そう仰いますか?」
興奮して少し頬を赤く染め すっと立ちあがる
「では 私に武士としての気質が無いか 確かめて下さい!」
「歳 何も其処までさせなくても良いであろう・・?」
見かねた近藤局長が止めにはいる
「吉村君、ご説明してお引取りいただきなさい」
額の汗を拭いつつ 笑顔を向けて促す
「は、しかし入隊試験を行う価値はあるのではないでしょうか
 これほどの実力の持ち主です 気質さえあれば入隊も・・」
穏やかに表情を崩し しかし底知れぬ威圧感で返す吉村さん
するとにやりと名案が浮かんだ様子で口を出す土方副長
「近藤さんよ ここは俺にまかせてくれねえかい?」
言い聞かせるような土方副長に それ以上嗜む気力が消える
絶対の信頼を寄せている証拠だ
「うむ では入隊試験を許可しましょう」
星の様な瞳を輝かせて 妙さんは頭を下げる
こうして前代未聞 女子の入隊試験が始まった
果たしてニヤリと笑う土方副長の真意はなんなのか
女子の前代未聞の入隊試験とは!?
今はまだ闇の中である・・・

急遽 新入隊士の試験が執り行われた
しかし 世間体もあるので 極新選組内部だけである
だから まさか女子が試験を受けるなど想像もしない
幹部クラスの人すらい知らない、吉村監察にだけ女子だと告げてあるのだ。
しかし 一心不乱に試験を行っているのはまぎれもない女子だ。
少なくともそう見えてしまう
平隊士などは どんな者が入隊するのか 気にかけていた
だから 尚更入隊志願者の雪さんの風貌に驚きの色を隠せない
「なあ市村 あの人凄い美人だな!まるで女子だ!」
血気盛んな年若い隊士が呟く
(綺麗。。どんな人だろう??うーん 見えない。。。)
鉄之助もドキドキである
むさ苦しい男世帯の新選組では ああいった美しい者にあまり
縁がない
男色が流行した後 現在でもある
だから皆ドキドキだ
「ふうん そうかな?まっ 君達よりは全然綺麗だけどさ」
鈴がシャンとうちなる声色 ふと降りかえってしまう
言い終えてそそくさと立ち去るこれも類まれな美少年
この毒舌の主 馬越三郎さんである
武田が「深い思いをかけた美少年が〜まったく絵に見るような〜
    笑う時でも恐れる時でも表情はまるで若い女子のよう・・」
といっている様に 美しい男だ
だから 他に美で注目される雪さんが面白くない
「あはは 相変わらずだなあ・・」
と溜息が漏れるが今は気にとめない
雪さんの姿を見ることで 頭がいっぱいだ
(あとちょっとで見えるのに・・・うあー・・・)
草履を高くして なんとか垣間見ようとする
(見えた。。。。!!!)
鉄之助の涙ぐましい努力が実った瞬間
胸が早鐘のように高鳴った
一瞬で顔が赤くなり そして汗が吹き出て 息が詰まった
(凄い美人だ・・・あわわ・・・まるで女子。。。。)
ドキドキと鳴り響く心臓の音を押さえ込むように大きく深呼吸
今まで見たこともない美人
それこそ島原などあまりいかない鉄之助にとって
その美少年(この際はまだ女子だとは思っていない)は貴重であり
そして いくら男色の気がくても目が行く
鉄之助も春に先駆けて 「お年頃」である
(あんなに美人な人が男だなんて 世の中広いなあ・・・はぁあ)
うっとりと美少年隊士を眺めながら
そろそろ高くあげた草履がジリジリ痛み出す
(はっ 私としたことが そんな邪な事・・・!!)
痛みで我にかえりつと草履を地につけると ドドドと地鳴りがした
びっくりして後方を見ると大声を発している人影
段々と近づき 猪突猛進の勢いで迫り来る
誰であるかを確認した矢先
目の前が真っ暗になった
それと同時に大声がする
「おい!噂の美少年ってぇのはどれだい!?邪魔だ市村ぁ!」
押された両腕に大きくつんのめり ぐらりとよろける鉄之助
そして次の瞬間・・・・
(ぐしゃっ)(踏まれる音)
「ぎゃーーーーーーー!!!」
(・・・・・・・・・・・・いっ・・痛い)
考える間もなく意識が薄れていく・・・・・
そうとう打ち所が悪かったらしい
(ああ・・・・・・・な・・・何故なんだぁあ・・・・・・)
哀れ猪突猛進の主である 原田に踏みしかれて
その場に昏倒する鉄之助
一体鉄之助はどうなってしまうのでしょうか!?


目を覚ますと頭の後ろがずきんずきんする
尋常ではないその痛みにおもわず跳ね起きると
ぐらりと眩暈までする始末
(ひーーーっ 痛い・・・くっそーーー・・・・)
と一人で文句をたれつつ(しかし口には出せない)また横たわる
頭を極力動かさないように 首に手を押し当てて
ゆっくり寝返りを打つと 多少痛いがまぁ大丈夫だった
(はぁ〜 あの時邪な気持ちであの人を眺めていたバチかなぁ・・)
など 今度は逆にしょんぼりとして行く
しかし 自問自答していても 段々と暇になってくる
誰も見舞にもこなければ 楽しいこともない
布団から動けずに 只呆けているだけの時間の長い事
(はっ それにしてもあの人の試験はどうなったのだろう。。。)
などとぼんやり思いながら しかし答えてくれる人も無く
(はぁ〜きになるなぁっ 誰かこないかなあ)
とぼやいていた。(寂しい時間)
するとガラリと障子が開き 眩しい光が刺し込んだ
眩しさに思わず目を細めると ようやく障子が閉まる
「すまぬ 眩しかったか?どうだ?怪我の具合は・・・」
と ゆっくりと枕元に座り じっと目を凝らしている
「お蔭様で さほど・・・大丈夫です あの」
ここぞとばかりに質問のチャンス到来だった
願ったりもない
「先程の綺麗な方 入隊試験はどうだったのですか?」
鉄之助としては 願わくば入隊していればいいのに。。。と
内心ほくそえむ。
少し間をあけて答える吉村さん
「ああ いや 残念ながら不合格だった お引取りいただいたよ」
と また淡々と告げる口元に優しい笑みがある
(あ〜〜〜〜〜残念っ・・・・・・)
などとあきらかに落胆の色を浮かべてしょぼくれる鉄之助
「なんだ 局長 副長のご裁可に異議を申し立てるのかね?」
「いえっ そんな事は・・・でも何故ですか?なかなか強そう・・」
と 言い終わる前に吉村さんの顔が厳しくなった
今まであまり いや見たことも無い厳しい顔に驚く
(何かまずい事を言ってしまったのだろうか・・・・)
「やはり 貴方にお話しなければならないようですね いいですか
 剣というものはただ闇雲に強くなろうとするだけでは 本当に
 強くはなれないものです。では、本当の強さとは?
 貴方も実際に見たことがあるでしょう、局長、副長や・・・・・・・
 各隊長達の「強さ」は何故だかわかりますか?」
キッと意志の強さを秘めた瞳が横たわっていても伝わってくる
あらためて何故と聞かれて 即座に答えが出ない自分への疑問
今まで他の人達の強さに憧れていた そしてああなりたいと
願ってきた、そのための努力もしてきたつもりだった。
しかし具体的な事は何一つ身についてない 解かっていない
本当に自分は・・・・・・
「貴方も先程の方と同じですね まるで解かっていない」
彼には珍しく突きはなすいきおいで こぼれた言葉に
酷く冷たいものを感じる鉄之助
それが自分の所為なのだと 感じる暇も無く続けられる
「何故強くなるのかは 人それぞれだと思います。 しかし
 そうなる為には誰もが越えるべきものがあると思います
 まだ 貴方には早いのか・・いえ そんな事はないと思いますが
 ・・・・考えてみるといいですよ では」
そう言うと すっと座を離れる吉村さん
また眩しい日差しが差し込み 遮られた。
(解からない・・・・今のままでは駄目なんだ・・・・でも)
また自問しはじめるが答えは霞みがかった春の空のように
ぼんやりとしている。
ふと 横を見ると、今しがた吉村さんのいた場所になにかある
ゆっくり痛まぬように手を伸ばして拾い上げると
懐紙にくるまって砂糖菓子が出て来た。
見舞の品なのであろう。
そっと口に運ぶと 溶けて甘い味が広がって行く
優しい甘い味、美しい先程の人の横顔がよぎる
それとは反対に 心は渋く 苦しい。
今まで経験したことのない感情にぐるぐると苛まれながら
重苦しい眠気に 今は落ちて行くしかなかった。
その答えは もうすぐ気付くこととなるが
今はまだ 幼さの残る少年の寝顔は 安らぎに満ちている。
満開の桜が春の日差しをうけ 桃色が輝いていて眩しい
春爛漫の昼下がりの出来事であった

<2008/4/4(金) 22:56 市村鉄之助>

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