新 選 組 特 別 編





鎖帷子・鎖頭巾・手袋

土方歳三

    

鎖帷子・鎖頭巾・手袋

斬撃に備える為に着衣の下に着込んだ。

かなりの重量となる。

鉢金・表裏

三条繩手の戦で身につけていた。

真正面に二箇所の刀傷が見受けられる。




和泉守兼定

土方歳三

  

作者は御存知、会津十一代和泉守兼定で慶応三年に

京都で鍛刀したものである。

五稜郭で土方歳三が戦死した後に写真とともに

遺品として届けられたと云われている。




行商用薬箱・稽古着

土方歳三・近藤勇

  

行商用薬箱

青年期に家業の薬の行商を行っていた。

時折、この箱に剣術道具を入れて持ち歩き

鍛錬に励んだと云われる。

近藤勇の稽古着

多摩に出向く際に近藤勇が小島家に預けて

置いたもの。背中の髑髏の刺繍は勇の妻、

ツネが縫った。髑髏を背中合わせとして

死も恐れぬ気構えを主張したのである。




安富才助書簡

安富才助



土方歳三の戦死を知らせる書簡状

「早き瀬に力足らぬか下り鮎」の追悼の句が知られている。




豊玉発句集

土方歳三

    

「朝茶呑みてそちこちすれば霞けり」 「朝雪の盛りを知らす伝馬町」

「暖かな垣根のそはやあくるたこ」 「あはら屋に寝て居てさむし春の月」

「うくいすやはたきの音もつひやめる」 「梅の花一輪咲いても梅は梅」

「梅の花咲るしたけにさいてちる」 「裏表なきは君子の扇かな」

「岡に居て呑むのも今日の花見哉」 「朧ともいはて春立つ年のうち」

「おもしろき夜着の列や今朝の雪」 「来た人にもらひあくひや春の雨」

「今日も今日もたこのうなりや夕けせん」 「公用に出て行くみちや春の月」

「咲きふりに寒けはみえず梅の花」 「さしむかふ心は清きみずかがみ」

「山門を見こして見ゆる春の月」 「しれは迷ひしなければ迷はぬ恋の道」

「しれは迷ひしなければ迷ふ法の道」 「白牡丹月夜月夜に染めてほし」

「大切な雪は解けけり松の庭」 「玉川に鮎つり来るやひかんかな」

「露のふるさきにのほるや稲の花」 「手のひらを硯にやせん春の山」

「菜の花のすたれに登る朝日哉」 「二三輪はつ花たけはとりはやす」

「願うことあるかもしらす火取虫」 「年々に折られて梅のすがた哉」

「年礼に出てゆく空やとんひたこ」 「春雨や客を返して客に行」

「春の草五色までは覚えけり」 「春の夜はむつかしからぬ噺かな」

「春ははるきのふの雪も今日は解」 「人の世のものとは見えぬ梅の花」

「ふりなからきゆる雪あり上已こそ」 「三日月の水の底照る春の月」

「水音に添てききけり川千鳥」 「水の北山の南や春の月」

「武蔵野やつよふ出て来る花見酒」 「横に行足跡はなし朝の雪」

「我年も花に咲かれて尚古し」 




旧幕軍士官の遺骨

蝦夷共和国

  

旧幕軍士官の遺骨

現在の五稜郭裏門の売店付近で発掘された。

大正十五年十月十二日付函館毎日新聞により掲載

旧幕軍士官の遺骨

五稜郭内で見つかった士官の遺体だが、

発掘と同時に遺体に着用していた軍服やベルトは

腐朽してしまったと云われる。

大正十五年十月十日付函館毎日新聞により掲載




土方歳三最後の書簡

慶応四年八月二一日付
内藤介右衛門、小原宇右衛門宛書簡(石井家所蔵)

    

東方両裨将様  土方

弥以御大切と相成候。明朝迄ニハ必猪苗代江押来り可申候間、

諸口兵隊不残御廻し相成候様致度候。左も無御座候ハゝ、

明日中に若松迄も押来り可申候間、此段奉申上候。以上。

廿一日夜五ツ

              土方歳三

内藤君              

小原君              

<< 読下文 >>

東方両裨将様  土方

いよいよもって大切と相成り候。明朝までには必ず猪苗代まで

押し来たり申すべく候間、諸口兵隊残らずお廻し相成候用意

致したく候。さも御座なく候わば、明日中に若松までも押し来り

申すべく間、この段申し上げ奉り候。以上。

二一日夜五ツ

              土方歳三

内藤君              

小原君              




隊士和歌 辞世の句

新選組隊士


近藤 勇

かくれても臣てふ道をつくしたることは調べの名にのこりけり

ぬばたまのゆめにてみればもろこしも枕のやまのあたりなりけり

よしの山花と匂はむあづさ弓引かえさじのきみがことの葉

ことあらばあわれみやこのやまいぬとなりてそえらむわがすめらきと

寒雨淋々不結夢 真延旅糸免遇陣営

摩しゃす源将の木人形 自ら盛功を説く爾は我儔
              猶一般の優劣有る処 鉞矛をもつて他日明州を凌がん

事あらばわれも都の村人となりてやすめん皇御心

丈夫志を立てて東関を出づ宿願成す無くんば
              復び還らず報国尽忠三尺の剣十年磨いて腰間に在り

恩を負うて義を守る皇州の士 一志を伝えんか洛陽に入る
              昼夜の兵談何事をなさん 攘夷誰と斗らん布衣の郎

冨貴利名豈可羨 悠々官路任浮沈 此身更有苦辛在 飽食暖衣非我心

山守の使いは来ねど馬に鞍置いてぞ待たん花の盛りを

綾なる流れに藤の花にほうわが生涯に悔はなし

孤軍援絶作俘囚 顧念君恩涙更流 一片丹衷能殉節 雎陽千古是吾儔

靡他今日復何言 取義捨生吾所尊 快受電光三尺剣 只将一死報君恩

芹沢 鴨

雪霜に色よく花の魁けて散りても後に匂ふ梅が香

山南敬助

牢落天涯志不空 盡忠今有一刀中 何妨萬里険艱路 早向皇州好奏功

伊東甲子太郎

波風のあらき世なれば如何にせんよしや淵瀬に身はしづむとも

春風に吹きさそはれて山桜ちりてそ人におしまるゝかな

吹く風にしぼまんよりも山桜散りてあとなき花ぞいさまし

すめらぎの護りともなれ黒髪のみたれたる世に死ぬる身なれば

雨風によし晒すともいとうべき常に涙の袖をしぼれば

遠き近きかしこき人の水くきは限りなき世に名を流すなり

真心の色さへ見ゆる時もあらはよし野の花とともに散らなん

百千鳥よしやなくとも梅の花鶯ならで香をなちらしそ

ふみ迷う人の多きもいかにせん武蔵の野べに道のあらねば

残しおく言の葉草のさはなれといはて別るゝ袖の白露

土方歳三

ふりなからきゆる雪あり上已こそ

飽かす見む横川の波にすむ月の影も散りなむ秋の山水

山寺は外ともわかす程遠きふもとに響く入り相の鐘

たちわたるあしたのくもも色深きかすみにこむる木曾のかけはし

嵐吹く夕べの雲の絶え間よりみたけの雪そ空に寒けき

駒の岳晴るゝ夕日に見る雪の光も寒くまかふ白雲

かりまくら寝覚めの床の山風も雨になりゆく夜半の寂しさ

しろたえに見る一筋は手作りのそれかとまかふをのゝ滝つせ

明わたる光もみえて風越の高根晴れゆく夜の浮雲

報国の心をわするる婦人哉

朝夕に民安かれといのる身の心ころにかゝる沖津しらなみ

わが齢凍る辺土に年送る

たとひ身は蝦夷の島根に朽つるとも魂は東の君やまもらむ

沖田総司

動かねば闇にへだつや花と水

永倉新八

武士の節を尽して厭まても貫く竹乃心一筋

藤堂平助

益荒雄の七世をかけて誓いして ことばたがはじ大君のため

相馬主計

佐奈加良仁曾美志和賀身者 輪可流登母 硯々利之宇水之賦可来古々路楚

安富才助

早き瀬に力足りぬか下り鮎

横倉甚五郎

義のためにつくせしことも水の泡うちよす浪に消えて流るゝ

青山次郎

埋る身もなにいとふへき手枕のまたさめやらぬ夢とおもへは

行末はいかに鳴海の浜千鳥なかるる身をはなみにまかせて

行すゑは弓矢ともなるなよ竹も風吹ことにうきふしそする

浅野 薫

志ばしまておなじ浮世の人ならば共に三つ瀬の川や渡らん

新井忠雄

諸共に結び合はせし玉の緒のまだ絶えやらで残る身のうさ

訪ぬ人も絶えて無かりし仮の家に今日鶯の声を聞くかな

石井勇次郎

幾とせも峰つむ雪に逢いてなおいろさへかえぬ唐さきの松

稲吉竜馬

西来東去幾辛苦 未報聖恩滄海深 一穂残灯明又滅 滅明猶照半生心

大石鍬次郎

三十二年所何事 浩然正気臆間存 生前遂無雪君冤 一片丹心答国恩

粕谷新五郎

君が世のためとおもひし出しほのよるべなぎさに汲む人もがな

清原 清

玉の緒は今ぞきゆとも惜しからじ勅の御軍のさきがける身は

佐野七五三之助

ニ張の弓引かましと武士のたヾ一筋に思ひ切るなり

鈴木三樹三郎

無官無禄一身安 唯有枕頭一瓶酒

想昔兄弟辞慈親 風塵今日奈孤身 墓前回首家山遠 依旧旅魂護紫宸

誓将錦旗挽倒瀾 同盟今有幾人残 風霜未改墳苔緑 請見賊軍骨已寒

豊かなる年の始めのしるしとて田にも畑にも雪は積もれる

世をさけて草の庵の楽みは月雪花の三つにはありける

あまたある梅のなかにも紅梅の清き色香は誰もめつらん

梅か枝に雪はむら見ゆれとも春立つけふは花とこそ見れ

梅の花こゝろありけに匂ふかな愛てにし人のなさけ思ひて

筑波根はかすみてけさは見えねともまた梅か枝に雪は残れる

梓弓なこその関に駒とめてちる花めてし君はゆかしき

大君のみあとを慕ひ妹と脊か死出の旅路に向ふあはれさ

死にてなほ君につかふる真心は千歳をふとも朽るものかは

高木剛次郎

きゝしよりまさる流ぞ玉川の水にうつろふ山吹の花

武田観柳斎

我も同じ台(うてな)やとはん行末は同じ御国にあふよしもがな

竹内武雄

阿ふがれて破れしほまれや白扇

田中寅蔵

四方山の花咲みだる時去れば萩もさくさくむさし野までも

何づかたも吹ば吹せよしこの風高天が原はまさに吹まじ

富山弥兵衛

から人は死してぞ止まめ我はまたなな世をかけて国につくさん

成合 清

陸奥にしはしやとれる雁ねにさめてかなしき古郷の夏

中島 登

忍つつ物うき秋を陸奥に過てそ春を待にけるかな

世乃中にくまなく照らす秋乃夜乃月さへしばし雲ニかくれん

芝垣をこして吹来ル秋風に香を乃ミはこふ今日の菊哉

渋くとも後に甘味よし樽の柿

服部武雄

尋ぬべき人もあらしのはげしくて散る花のみぞおどろかれぬる

前場喜司馬

瀧つ瀬の清きなかれにすむほたる籠にわかれて思ひもゆらむ

毛内有之助

ますら雄の思ひたちにし旅なればあさ気の寒さなどいとふべき

こし方をしのぶ涙のふる郷を恋つつぬれば夢も結ばず

森 常吉

かくなれはかかる憂き目はかねてよりしりつヽ猶もいとはるヽ哉

我かうさをなくさむとてか鶯のなく音身にしむけふのたひ路は

夢にたにみるよしもかな我か君の忍ひいませる國はいつくそ

はると遠き海山たとり来て雪路にまよふ函館のせき

春風の今やとくらんふりつみしみ雪にほそる墨田のなかれも

おもひきやそりをあひのに引せつヽ蝦夷の雪路の旅をせむとは

かりのことこの箱立に宿りこしたヽなかめなる武蔵野のそら

雪になやみ霰の玉をうけつヽもなとたゆむへきつもるおもひは

波の立つよとおもはれしそこさえもすみ渡り見ゆ月の松嶋

君見なはいかヽ思わむ武蔵野の見るかけもなくあれはてしさま

諸君の恵の風やはらふらん日毎ふりつむとこのうえのちり

晴れる日も寒さ身にしむこのころの雪ふる里はいかヽあるらん

妹や子のみれヽはなにと思ふらん蝦夷の山路をそりに乗るさま

けふはヽや雪氣の雲のうちとけて心晴れ行く春の曙

さまに色香をきそひ花咲けと實こそすくなき世にこそありけれ

鶯の鳴く音みにしむみちのくの心細道たとりゆく旅

箱立のやふれし時に身ををし終へはかヽるうきめに逢はさらましを

なかにおしき命にありなから君のためにはなにいとふへき

うれしさよつくす心のあらわれて君にかわれる死出の旅立

山形時太郎

塵塚の煙る旭は別れ霜

山脇隼太郎

露ふりてしける千草の秋の野にいろはへて咲くしらきくの花




残し置く言の葉草

伊東甲子太郎


   ・甲子のとし国の為に都にのほらんとて
     大森の寿留賀屋楼を立出て

残しおく 言の葉草の さはなれと いはて別るゝ 袖の白露

   ・神奈川辺にて雨の降りければ

いかにせん 積る思ひは ます鏡 みかけとくもる 別れ路の空

   ・鎌倉八幡宮を拝しつゝ

浮雲を はらひ除かん 人をたゝ まもらせ玉へ あはれ此の神

千草生ふる 鎌倉山に ちかひてそかり 払はなん あらきえみしを

たとへ身は 岩うつ波の くたくとも くたくへしやは 大和真心

   ・三島の神垣に参りて

世のために 尽すまことは 三島なる かしこき神も しろしめすらん

世のうさに 積る思ひは 富士の峰に かゝれる雪に おとるへきやは

   ・富士の根にて

駿河なる 富士に積れる 白雪は すめら御国の 光なりけり

世の憂さも 富士の高根の 白雪も いつかはとけん 積るはかりそ

   ・三保の松原にて

うき雲を 払ひのそかん 後にこそ 晴れしけしきも 三保の松原

   ・加納の里にて

真心も かなふの里に 旅寝して 夜深き秋の 月を見るかな

願ひある 身には深くも うれしけれ 名さへかなふの 里にやとりて

   ・不破関にて

あられふる 不破の関屋に 旅寝して 夢をもえこそ とほさゝりけれ

   ・近江路にて

おもひ入る やまと心の 一筋に 矢走を渡る 船のかすゝ

   ・皇居日の御門を拝して

ちりひちの 身はいかにせん けふよりは すめら宮居の 守りともかな

大丈夫の 涙の雨の かゝる夜に 道なたかへそ 雲のうへ人

   ・都にありて

大丈夫の 武き心の さきかけて 世にも知られん 梅か香そする

いかに世の しほめるものに 心せよ 今さきかけし 梅か香そする

   ・東より文おこせけるを喜ひて

筆のあと 見るそうれしき これなくは いかてあつまの 春をしるへき

   ・因循の述懐

ふみ迷ふ 人の多きも いかにせん 武蔵の野へに 道のあらねば

   ・若し朝賊もあらば一死と思ひ定めて

真心の 色さへ見ゆる 時もあらは よし野の花と ともに散らなん

   ・述懐

おもひきや 松吹く風の 音絶えて 波をさまれる 代にならんとは

   ・懐故郷

我袖の 涙にやとる かけそとも 知らてや人の 月をなかめん

東路と 雲井はるかに 隔ては 月のみともに 見るそこひしき

   ・題しらす

数ならぬ 身をはいとはて 秋の野に 迷ふ旅寝も たゝ国のため

むら雲の かゝれる月の おもひもや 花にうち吹く 春の山風

秋きぬと 目にこそ見えね かり枕 旅寝ひさしき 虫の初声

心なき 人を心に 思ひそめ こゝろみたるゝ 秋の萩原

兼ねてより あすある身とも 思はねは いかてちきりを 結ひ留むへき

露深き 秋の萩原 わけ行けは 身にも知られす 袖しほるなり

   ・述懐

世の為めに 尽す誠の かなはすは 我大君の たてとならまし

よしや身は いくせの淀に 沈むとも 世のうき事を すくはさらめや

   ・題しらす

国の為め おつる涙の そのひまに 見ゆるもゆかし 君のおもかけ

流れ行く 人の心の 浅けれは われのみ深く もの思ふかな

おのれのみ 深くも思ひそめにけり うつろひやすき 花の色香そ

あふくへし 我身のうへの あつさ弓 君と親との 情あつさを

心から はつかしきかな いたつらに 暮して年を をしむならひは

   ・時鳥

時鳥まつ 夜は数多 かたらはて 思ひすてたる 枕にそきく

   ・あつまの花

いかにせん 都の春も をしけれと なれにしあつまの 花のなこりは

   ・恋

逢ふまてと せめて命の をしけれは 恋こそ人の 命なりけり

   ・若草

山の端は また消えやらぬ 雪なから 都の野辺に 若菜つみけり

   ・梅

百千鳥 よしやなくとも 梅の花 鶯ならて 香をなちらしそ

   ・桜

千早振 神代のまゝの 桜花 よのうきことは 知らて咲くらん

   ・青柳

あらそはぬ 姿なからも 春風に 吹き乱さるゝ 青柳の糸

   ・春風

香をのみは 伝へおこせよ 去りなから 花なちらしそ 春の山風

   ・霞

桜色に 染めし衣と 見ゆるかな 花さく山に きする霞は

   ・山吹

谷川の 流に咲ける 山吹の いはぬ色香に なほまとひけり

   ・春雨

春雨に 幾たひ袖を しほるらん なかめもあかぬ 花のなこりに

   ・題しらす

ものゝふの 矢走の渡し わたるとも 渡り難きは うきよなりけり

うつくしき 人のまもりや 真心の かはらぬ色に 花も咲くへき

大君の おほみ心を やすめすは いかにくるしき 身をいとはなん

   ・梅

降り積る 雪の下より 咲き出てゝ にほふも春の 花の魁

うしと見し かりの旅寝の やとりにも 梅は都に おとりやはせぬ

   ・慶応三とせの秋八月の初に思ふことありて
     筑紫の国に下らんとて都をうち立時によめる

大君の 大御心を やすめすは 身はつくし路の 露と消えまし

   ・京都島原木楼にてちかひある人々と酒くみかはし
     別れを惜しむ折ふしなれは

世のうさに ぬるゝ袖さへ 人はたゝ 今のわかれの 涙とや見ん

   ・おなし思ひに友とち なこりを惜み
     三人して伏見の里に送り来ぬ人へ

うきことの かきりを積みて 渡るかな 思は深き 淀の川舟

   ・舟のうちにはくさゝの人乗り合ひて
     語らふことも定めなき賤しきことや根なきことにて
       心とむる人とてもあらぬまゝ

ひそみ行く わしの心を むら雀 むらかりしとて 知りうへきやは

   ・浪華津にて

浪花津の よしあししけき 世の中に わかよしあしは 知るよしもなき

   ・九日の朝弟三樹三郎と袂を分ち兵庫をさして急き行くとて

ますらをの 心とともに 春霞 たつをな留めそ 大坂の関

   ・とも綱をときける時に

数ならぬ 身をは思はて 大君の ためをつくしに かよふとま船

   ・船は淡路島根に近かき頃兵庫の方や津の国の沖なとに
     えみしか船の数々我ものかほに船かゝりせしを見て

なまくさき えみしら船を うち払へ 清き大和の つるき太刀風

   ・湊川楠木公の墓前にて

行末は かくこそならめ われもまた 湊河原の 苔の石ふみ

   ・湊川を立出るとて

波風の あらき世なれは いかにせん よしや淵瀬に 身は沈むとも

   ・牛窓てふ港に舟かゝりせし時

さなきたに 浮世をわたる とま舟に かり寝の夢も うし窓のはま

   ・日にゝ筑紫のかたに近かくなりけれは
     乗り合ひし人々は故郷に近くなるを喜ひあへりけるを

もろ人の 古里ちかく 行く舟は 我身に遠き 旅寝なりけり

   ・秋のもなかに月をなかめて

故郷の 母の御袖に やとるかと 思へは月の かけそ恋しき

   ・はや十八日と云ふ頃になりて長州なる関の港につきけれは

長門なる 萩の葉ことに おく露の ひかりをそふる 有明の月

   ・これより二日三日もへて筑紫なる太宰府に
     着きける時 月感といふことを

かしこくも うき世の月は 大君の 御袖にもなほ 影やとすらん

   ・太宰府天神社へ参詣の折節梅花の盛りに匂ひけれは

まらうとは 雲井の君よ もてなしに あるし顔にそ 匂ふ梅か香

   ・筑後府中高良山武内宿禰の社前にて

ちはやふる 神風今も 吹きはなて えみしか舟を あらき浪間に

   ・肥後の国にて

心をも 身をも忘れて 後にこそ つくす誠や あらはれもせん

   ・二十二日同し国にて

みはやさん 人さへなきに 山桜 なにをたよりに 咲きにほふらん

   ・肥前佐賀にて

今さらに なにをかものを 思ふへき 世にもうれしき ますらをの友

   ・小倉に入りたゝかひのあとあはれさひしきさまを見て

此頃は やたまのひゝき たえはてゝ 影もさひしき 秋の夜の月

   ・豊後日田原にて嫌疑を受けし時

真心の 清き心に くらへみん 日田の川原の 秋の夜の月

   ・帰途また長門なる赤間関に行きて

身をくたき 心つくして 黒髪の みたれかゝりし 世をいかにせん

大君の 御ため思へは ますらをの 袖の涙に かゝる世の中

   ・長門桜山は国の為に討死せし人々の魂を祭れる所なれは

日の本の にほひも高き 桜山 ぬるゝもうれし 花の下露

   ・赤間関を船出して

いくたひか 浪間を越えて 筑紫かた 深き思を 渡るなりけり

   ・防州室積の港にて嵐に逢ひし時

腸も くたくはかりの とま船に ひゝく浪間の あら浪の音

   ・船路にて過きし嵐にえみし船の紀の国と淡路島根の間にて
     沈みしことを聞きよろこひて

大君の 心のまゝに 神風の ふきしつめたる えみしこと船

   ・明石旅泊

聞くことに 旅寝のうさの まさるかな あかしの浦の 松風の音

   ・生田の神前にて

月影も 心もすめる 神垣に 声ふりたてゝ 鈴むしのなく

千早振 神もいまさぬ 世となるか 生田の森に すめるえみしら

   ・摂海夷人が住居となるをなけきて

浮雲を はらふ心の なかりせは なと日の本と となへゝしやは

   ・思をのふ

故郷を わするゝとには あらねとも かゝるうき世を いかにしてまし

   ・同し秋またも御国の為とて尾張の国に行くとて矢走の渡にて

国の為め おもひ入りては 武士の やはせのときも なにいとふへき

   ・鈴鹿山にて

秋萩の 咲きみたれたる 鈴鹿山に 声ふりたてゝ 虫のなくなり

   ・宮の舎りに人々いとなみのしけきさまを見て

ことしけき 民草原の いとなみは 言葉ことの あらきものかな

   ・楠正行の母

世の憂を つらきもしのふ 思ひこそ 心の道の まことなりけれ

   ・北畠顕家夫人

なき人の かたみの野への 草枕 夢もむかしの 袖の白露

   ・加藤清正夫人

とりゝに 盛り久しき 桜花 尽きぬ契りも 妹と背の山

   ・感ありて

遠き近き かしこき人の 水くきは 限りなき世に 名を流すなり

(約二百首の中より)






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