enough
 
 
 
ひとが死んじゃう、というのはどういうことだろう。
 
魂は不滅だという説は、
 
特に否定するつもりはないけれど、
 
 
 
とりあえず、
 
いくらぽかんと待っていてみても、 
 
電話の声がきけなくなるということだったり、
 
たとえばお金と暇が出来ても、
 
切符を買って一緒に出歩いたりすることが、
 
明日からは
 
出来なくなってしまうということだなあ……
 
 
 
メディアを通じてしか知らなかった人ですら、
 
いつかは会ってみたいと思っているうちに、
 
少しずつ、不可知の世界に行ってしまうことは、
 
とてもさびしい。
 
もう、新しい姿を見ることが出来ないというだけで、
 
なんとなく哀しくなる。
 
 
 
 
じかに知り合った仲ならなおさらだ。 
 
 
 
だから、勝手に死なないでね。
 
特に特に、
 
私のだいすきなあなたは……
 
 
 
その時はせめて、 
 
先にいっちまうことに、
 
耳元で「馬鹿野郎」とでも言わせてちょうだい。
 
 
 
そのあとで、私はしぶとく生きていってみせるから。
 
 
 
だって、私が生きて思い出している間は、
 
あなたは本当に死んでしまったことにならないものね。
 
 
 
ああ……ゲンの悪い話を空想してしまって、ごめんなさい。
 
あのね。
 
今はあなたが、
 
生きてそこにいてくれることで、充分です。
 
 
 




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