くだらぬ奴
 
 
 
無駄に歳月を過ごし、いいトシになってもくだらぬ奴よ。
死んだ魚のような目をして、まだ若いくせにくだらぬ奴よ。
 
自分も大概いい加減な人間だが、
それでもお前らに較べれば、少しはましな、
やさしく、賢いところもある人間であると自信を持つことが出来た。
いかにくだらぬ奴でも、
無礼討ちにも引き回しにも、ノコギリ引きにも火あぶりにもならずに、
のうのうと飯を食って、鼾をかいて眠れる今のこの国に、
感謝するがいい。
 
くだらぬお前に傷つけられ、汚され、迷惑をかけられた幾多の人びとが、
お前よりもずっと正気な人びとであって、
「可哀相に」と嘲笑するだけですませている事にも、
感謝するがいい。
 
手も届かぬ相手に入れ揚げて、現実との区別が出来ないものを妄想の虜といい、
知りもしない、わかりもしない事をさもそうであるかのようにあらわせばただの憶測といい、
調べればわかるような、事実と違うことをカタるやつを嘘吐きという。
 
自分の力でないものを背景にして他への虚勢を張るものを虎の威を借る狐といい、
誰が聞いても不愉快な言葉で他人の悪口を言えば中傷という。
 
とっくに相手に嫌われているのにしつこくつきまとうのを悪女の深情けといい、
勝てない相手に悪態をつくやつを負け犬の遠吠え、曳かれものの小唄、
分際をわきまえない、恥知らず、みっともない、
エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ……
というのだ。
 
 
 
はあ……疲れた。
たまに怒るのも楽じゃない。
こんな事ばっかり喜んでやってるくだらぬ奴の顔が見てえ……いや、見たくもねえや。
目が悪くなる。
そんな奴は、自分の顔を鏡で見て、醜い自分に吐き気でももよおしていればいいのさ。
あ、駄目か。
どうせ自分の家の鏡すら、歪んで映っているに違いない。
それとも怖くて鏡も見られないかな?
 
無駄だ無駄だ、
くだらぬ奴など放っておいて、皆で楽しく遊びに行こう。
どうせそんな奴はてめえだけの世界に閉じこもって
たわごとばっかりヒステリックにほざいてるような、ひがみ者のモテない奴なんだからさ。
自分の畑を耕しもしないで、人の畑の実をやっかんでいるような奴が、
いくら飢えたところで誰にも恵んでもらえないはずさ。
 
満たされている奴は人にも分け与えることが出来るし、
愛されている奴は愛することも出来るからな。
すべての恵まれない人に与えるなんて事は神様がなさることさ。
人間に与えられた時間なんて、たかだか数十年、長くて百年あまりがいいところなんだ。
勿体ないから、もっといい事に使うことにしようぜ。
くだらぬ奴には、かまってやったら、癖になるだけさ。
ストーカーは、相手が何か言うほどゾクゾクして嬉しがるっていうからな。
怒らせてでも泣きついてでも、構ってほしくてしょうがないっていう、頭のおかしなタイプ。
そんな奴、無視するのが一番だよ。
頭の中から捨ててしまえ。
 
さ、皆、もっと楽しい事をしに、扉を開けて外へ出ようぜ。
 
 
パタン。コツ、コツ、コツ……
 
 
 
 
 
置手紙。
 
「おや、何をそんなに怒っていらっしゃるんです?
これは私が、自分がくだらぬ事をした時に読み返すための、
自戒の日記ですのに……」 
 
 
 




      次ページ

      戻 る