京 の 秋 |
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物思いの心を抱えて 秋深い古都へ行ってはいけない 散り敷く紅と黄の落葉が 静かに黒い軒端の影が 何もかも貴方のことを思いおこさせるから そこに貴方が立っていて ふと肩をよせながら いにしえの恋人たちのように 吹き寄せを染めた友禅を着て 瀬音に羽をつくろう千鳥たちのように 鴨の瞬きを眺めていれば これほどの寂しさを感じることもあるまいに、と 切なくなってしまうから いつかまた、という約束を 心のすみに灯しながら あてのない事、とひそやかに溜息をつく ふと俗世の交わりを絶って 黒髪に剃刀をあてた古人たちの囁きさえ 聞こえてくるような気がする この輝かしい季節に 心に魔をしのばせたまま 秋の京へ行ってはいけない |
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写真提供 : 幕末維新新選組副長 土方歳三様
( 京都三千院の紅葉 )