ジャケット
 
 
あなたと似た色のジャケット

目の前を行き過ぎていく

振り返っても

そこにいるはずもないと

わかっていたことへの小さな吐息

わずかな苛立ち




雑踏の中

不安も期待も織り交ぜて

その色を探したのはいつのこと?

視界に入ってくる広い肩に

ほんの一秒に満たない間

胸を高鳴らせたのは




いつも隣りにいるようで

そのくせ

二人の間に横たわる流れが

毎日少しずつ溝を刻んで

数センチずつでも深く広く

いつしか大きな隔たりを作ってゆくことに

あなたは気づいていない

昨日までは手をつなぎさえすれば

軽々と飛び越えられた距離も

いつかはその手も届かないほどに

変わっていくまであなたは気づかない




もう

あなたがどんな色のジャケットを着ていても

私は探すこともないかもしれない

あなたが何を好み

何を選び

何を愛し

何を憎んでいても

わからなくなっていくから




多分それはあなたも同じことね

私が今

何を感じ

何を求めているのか

今日はどんな色の服を着ていたのかも

あなたにはわからない




そしてどちらかが

うっすらと予感していようと

あまりに唐突だと感じようと

サヨナラの言葉を口にする時に

ほんとうに

とてつもなく離れてしまっていたことに

お互いを必要としていなくなっていたことに

改めて気づくんだわ

 
 
 




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