冬の缶珈琲
 
 
「少しぜいたくになっていたらしい
 
僕はまだ
 
君のいない暮らしに
 
慣れないでいる
 
左の肩の下で
 
ちょっとちょうだいという声を
 
待っているような気がする」
 
 
 
 
「少しわがままになっていたみたい
 
私はもう
 
あなたの指が冷たかった日を
 
思い出している
 
右手に渡されたものを
 
あんまり甘くないねといって

返した時のことを」
 
 
 
 
「やり直せるだろうか」
 
「やり直せるのかしら」
 
 
 
 
「いや無理だろうな」
 
「きっと無理ね」
 
 
 
 
そして彼と彼女は今日も
 
別々の場所で
 
別々の名の珈琲を飲み終わると
 
同じような動作で
 
缶をゴミ箱に放った
 
乾いた高い音が
 
別々の冬空の下で
 
からっぽに響いていた
 
 
 
 
 




      次ページ

      戻 る