嘘かまことか |
「嘘のかたまり まことの情け そのまん中にかきくれて……」 三味の音だけで聴かせる古い唄に そんな文句がある この言葉を作った人も とうに世を去ったであろう古い唄 今になってその言葉が響いてくるようだ 近頃は いつも澱のように 胸にのこるつかえを拭いきれない 今ここに生きていることの 何が本当で何が嘘? それはまだ生きている誰にもわからない 嘘をつくことはたやすく 信じることはなし難いから きっと私の知らぬところで 様々な嘘と様々な真実が きょうも取り巻いているのだろう それをすべて包容した中に かすかな生のきらめきがある もし私が去るときが来れば 一枚の影ものこさず 一片の形見ものこさず ただ私を愛してくれたひとにぎりの人の 記憶の中にある間だけ 痕跡を残して あとは跡形すらなく 消え去ってしまいたい ただの空気のように 剣を交わしたときにおこる火花のように いつかそこにあったというだけにとどめて 忘れ去られてしまいたい どんな恋も友情も信頼も ほんとうの本当には得られないものかもしれない どんな夢も希望も目的も ほんとうの本当には空しいものかもしれない ありえないとわかっているからこそ 人は血を流してまで あがきながらそれを求めるのか そしてそれを得られたと思うからこそ 人は涙を流してまで 生きてみようと考えるのか 虚も実も涙も笑みも喜びも苦しみも とりどりにつむぎ合わされて 新たな色柄を織り上げてゆくことが 人と人との営みであるのかもしれない |